気が付いたら、自分の冴えない人生も折り返し地点を過ぎた感があり、
おじさんライフの代表的な趣味である「蕎麦打ち」を始めてもおかしくない年齢になってしまっていた。

このままでは、休日に家族や友人を招いて自作の蕎麦を振る舞うだけでは物足りず、コツコツと資金を貯め、会社をリタイアした暁には、長年の夢であった本格手打ち蕎麦屋をオープンしてしまう未来が見える。

好きなことだからと言って、人生のセカンドキャリアを自分の打つ蕎麦に懸けて良いのでしょうか。
世間の荒波を乗り切っていけるのでしょうか。

そんなことを考えると、うえやまとち先生の代表作『クッキングパパ』に登場する大平課長は、「定年まで勤め上げた会社の会長が共同経営者」という強力すぎるカードを手に入れて開業したのだから、それだけでなんだかズルくないですか。

会長が接客したり、厨房に入っている描写もないので、出資しているだけなのでしょうか。
めっちゃズルい。まぁそこがボクらを魅了してやまないうえやまワールドなので問題ありません。
続けましょう。作中ではとっくに退職してるのに「課長」という呼称も微妙ですが、まぁ便宜上ということでご理解ください。

そんな大平課長、在職中にEDをカミングアウトしたことを機に、今では哀中(“元気の出る料理を食べる哀愁の中年の会”の略)エピソードには欠かせない存在となっていますが、連載開始当初は口うるさくてヒステリックで、何だかあまり良いイメージなかったんですよね。
当時は自分も若く、感情移入するなら田中や梅田くらいの年頃だったのもあるかも知れません。営業二課の中でも珍しくフルネームが明かされていないことを考えると、当初は社内にだけ登場するモブキャラ扱いだったのかも知れません。
同じくフルネームが明かされていないどころか、本名呼びすらされていないキャラとしては、他に「メガネさん」がいますが、こちらはニックネームなのと、「はっはっはー」という、うえやまワールドならではの笑い声も含めて、うえやま先生のお気に入りなのだろうと推察されます。メガネさんが奥さんの実家が営む養豚業者に転職して久しいですが、梅田が「メガネくん」と呼ばれない/呼ばせないのは、いかにメガネさんが作者に愛されているかを表しているところなのかも知れません。

メガネと言えばメガネさん。メガネさんは釣りの腕前がプロ級だったり、釣った魚を自分で捌いたりと、特にメガネを売りにしているキャラではないのに、いろいろスキルが盛り込まれていてすごい。愛されすぎていて怖い。というか、大平課長もメガネでしたけど、そこはキャラ設定には全く関わってきませんでしたね。不憫です。

大平課長の一人息子のかずおが初登場時に荒んでいたのも、大平課長のネガティヴイメージに拍車をかけているかも知れません。大平課長は出世の道を捨てて、福岡で子供を育てることを選んだ、という背景が描かれるのも少し先の話ですから。
かずおはかずおで、どうせポッと出の使い捨てキャラかと思ってましたけど、その後の大学進学を経て、久美ちゃんとのあれやこれやがあって、ようやく札幌で二人が結ばれた時には素直に感動しましたね。CP(クッキングパパの略)は意外と人が死んだりするので、人間ドラマに厚みを持たせていると思っている派なんですが、みなさんはどう思いますか。
というかそもそも、最初に久美ちゃんと破局した原因は、かずおの大学の先輩の悪ノリでしかないと思うんですけど、どうなんでしょうかね。僕がかずおなら、あの先輩を一生許しませんけどね。久美ちゃんかわいいし。
ともあれ、会社を定年(または早期退職)して蕎麦屋を開業というオジサンズドリームは、若い頃には到底理解できませんでしたけど、おじさんになって初めてその魅力がわかったような気がします。誰の心にも大平課長はいて、これから大平課長になる人もいる。案外、君のすぐ近くにも大平課長はいるかも知れない。

ランチタイムにフラッと入った蕎麦屋の厨房に、妙に長い鼻とアゴの初老の男が立っているかも知れない。そんな一方的な出会いを求めて、インターネットの情報を捨て、街に出よう。いかにも脱サラして始めたっぽい、のれんが新しめの蕎麦屋に入ってみよう。ちなみに僕が一番好きなCPのキャラは、梅田の奥さんのユミちゃんです。次にきんしゃい亭のママ。