「街を捨てて、BL小説を読もう」などを宣言しておいて、街に出まくっているせいで原稿の書けない日々が続いていました。
編集長の西原さん、先に原稿料を振り込んでくれたというのに、ごめんなさい。

どこの街に行っていたかというと……イギリスはロンドン。霧の都です。大学時代にも一度行ったことがあるのですが、今回はソーシャルメディアにかんするカンファレンスが開催されるということで、会社の研修制度を利用して乗り込んでまいりました。

 

さ、寒かった。

 

メインのカンファレンスや、交流のある企業へのオフィスツアー、そして一緒に渡航した同僚とのMTGなど、インドアに仕事をしている時間が大半ではあったのですが、朝はハイドパークを散歩したり、土曜は郊外のアウトレットに買い物に行ったりと、それなりに息抜きもできました。街のどまんなかの公園に大量の鳥とリスがいてすごかった……。私は鳥が大好きなので、夢中で写真撮影をしてしまいました。

 

 

ロンドンで見たもののなかでも一番驚愕したのは、現代アートの殿堂である「テート・モダン」で特別公開されていた「The Clock」。

 

クリスチャン・マークレーという方の作品なんですが、なんと数千以上もの映画の「時計がうつっている部分」をマッシュアップし、見ている私たちが体感しているのと同じ時間が流れるようにしたという、24時間の映像なのです。

 

私は中に入るまでどういう作品か全然知らなかったので、
「この映像、やたら時計が出てくるけど何なんだろう。でもテンポ良くておもしろいな……結構時間経ってる気がするけど何時かな……あれ、画面の時間と……同じ!?」
と、観ている途中にその「意味」に気づいて驚愕することができ、とっても楽しい体験でした。あまりにもおもしろかったので、合計2時間以上観てしまった……。いつかどこかで24時間ぶっ続けで見たいものです。

 

さて、「街の話ばかりでBL小説の話にならないのでは?」と読者のみなさんが思ってきたところでご紹介したいのが、

松岡なつき『FLESH&BLOOD』。こちらは、「イギリス」と「時間」が大きくかかわるBLです。

 

海斗は、商社で働く父親の仕事の都合で、イギリスで暮らしている高校生。裕福な家庭で不自由なく過ごしていますが、子供すらも親同士の出世あらそいのアオリを受ける駐在日本人コミュニティのなかで、本当の友達ができないという孤独にさいなまれています。

そんな海斗があこがれているのが、イギリスのキャプテン・ドレイク。幼馴染の和哉とともに、夏休みを利用してドレイクゆかりの地・プリマスを訪れた海斗でしたが、そこで一人次元の壁に飲み込まれ、見知らぬ土地に飛ばされてしまいます。
なんとそこは、大航海時代まっただなか、16世紀のイギリス。海賊船の船長ジェフリーに助けられ、彼の船のキャビンボーイとなった海斗は、やがて「アルマダの海戦」へと至る、イギリス-スペイン間の権謀術数に巻き込まれていくことに……。

 

「え、これ1冊で終わるような話なの?」と思ったみなさん、ご明察です。
この『FLESH&BLOOD』、BL小説界では異例の長編もので、すでに24巻が出ている大河シリーズ。
歴史的な資料をしっかりと読み込んで描かれた物語で、エリザベス女王やフェリペ二世、キャプテン・ドレイクのみならず、シェイクスピアやセルバンテス(「ドン・キホーテ」作者)といった文豪まで、実際に16世紀に活躍していた人物たちがこれでもかと出てきます。

 

心ひかれあったジェフリーがこの海戦で命を落とす人かもしれないと知った海斗が、彼を助けるために、自分の知識を全動員して歴史をゆるがしていくさまも痛快かつ切ないのですが、そのうえさらに、海斗が捨ててきたはずの現代・和哉パートも、途中から不穏に動き出すのがたまりません。
果たして海斗はジェフリーとともに16世紀を生き抜くのか、やがて現代へと呼び戻されてしまうのか。
BLにおいて鉄板の「濡れ場」成分は控えめに、歴史のおもしろさ、タイムトラベルもののおもしろさを存分に楽しませてくれる本シリーズは、老若男女問わず読み応えのある傑作です。そうして海斗やジェフリーが巻き込まれる冒険に心ときめかせているうちに、自分自身の時間も大切にしたくなるという効能もあります。

 

続きものではあるものの、1巻1巻のストーリーもしっかりしている同シリーズ。「24巻はちょっと……」という方、まずは1巻だけでも読んでみてはいかがでしょうか。私も、原稿が終わったら読み返そう……。