紅の豚肉

仕事であったり、プライベートであったり、時にはDJであったり、一年のうちの半分ほどは家を空けることが多く、必然的にその間は、居住地以外のどこかの都市で過ごしているということになる。空いた時間で観光したり、名物に舌鼓を打ったり、ということに精を出すでもなく、その街に溶け込むことのない、中途半端な自分の存在を楽しむのが好きだ。今回、編集長の西原さんから「なんとなく文章が書けそうな感じがするから」という雑な理由で、恥ずかしながら連載を始めることになったので、そんな日常の一片を綴ってみようと思う。

何度か訪れている街では、行きつけの店ができる。仙台もそのうちのひとつだ。牛タン、笹かま、萩の月と、名物が語呂よく思い浮かぶ地域だが、毎回欠かさずに通っている店が、地元のオーガナイザーの若王子さんから連れていってもらった中華料理店・成龍萬寿山だ。若王子さんはイベントの運営のみならず、食に関しても頼りになる、ホスピタリティの化け物のようなナイスガイで、仙台を訪れる度に彼のアテンドを楽しみにしている。先日も、DJとして出演したイベントが終わると、その夜のことを反芻しながら、慣れた足取りで国分町の繁華街を抜け、ケヤキ並木が有名な定禅寺通りを渡り、落ち着いた街並みの中に突如として現れた、赤く輝く看板の光に吸い込まれていく。

時計の針は深夜2時を過ぎてはいるものの、店内は多くの地元のお客さんで賑わっていて、それぞれのナイトライフの終着を見る。オーダーを若王子さんに任せ、瓶ビールでお互いを労っていると、赤いグラデーションで満たされた深めの丼が目の前に登場する。料理名を「水煮肉片」と言う。見た目だけでなく、名前からしてインパクトが大きい。その字面から、どことなく事件性を想像してしまう。中国語で「水煮」とは「四川唐辛子油の沸騰料理」らしく、簡単に言うと「四川風豚肉煮込み」って感じだろうか。ルーツは四川料理とのことだが、台湾のパーティーメニューという説も聞くし、調べてみると、そのレシピも多種多様だ。名前と見た目こそ強烈ではあるものの、表面に辣油がたっぷりと浮いた、丼に並々と盛られた煮込みなど、正直、あまり旨そうには思えない。何より辛そうなので、初めて目にした人は、積極的に箸をつけないことだろうとも思う。赤主体の鮮やかなカラーリングから、今をときめくインスタ映えメニューとしても非常にバリューがあると思われるのだが、悲しいくらいにそれっぽい女性客がいない。おじさんだけが知る、おじさんだけに許された、心のインスタグッドだ。

恒例の儀式のような撮影タイムを経て、丼をレンゲですくうと、衣のついた豚肉や、クタッとなった白菜が、どろりとした質感と共に引き上げられる。これはこれで三角コーナー感があるなと思いつつも、ライスにオンして頬張ったり、熱々をビールで流し込んだり。そう言えば、昼から何も食べていなかった。熱さと辛さが、空腹にズンと心地いい。見た目はともかくとして、予想していたよりも適度に抑えられた辛味と、何とも形容しがたいが、ライスも酒も進む絶妙な調味で、おかずとしても、おつまみとしても優秀な一品となっている。一人前とは言え、3~4人でシェアするくらいがちょうどいい量なので、一人で来ても、完食するのは大変そうだ。ちなみに大盛でも、量はさほど変わらないらしい。食事を終えて店を出ると、外の空気は既に夏の夜の匂いだった。互いに別れの挨拶を交わし、帰路へと就く。疲労と酔いが混じったフワフワした足取りで宿に戻り、泥のように眠る。そして数時間後、胃もたれで目覚める。書いているだけで、腹痛の幻影が襲ってくるようだ。そして、これからも仙台に行く度に、同じことを繰り返すだろう。パーティー・イズ・オーバー。