数年前に仕事で知り合った西原さん。久しぶりに会ったらウェブマガジンの編集長をしていて、「どんなテーマでもOK!」というあまりにもざっくりしたオーダーで、寄稿を依頼いただきました。

 

しがないアラサーOLなので、「どんなテーマでもOK!」と言われるとかえって困ります。なんかめちゃかわいい女の子が表紙のウェブマガジンだし、中で書いているの、みんなサブカルの原液を飲んでそうな人たちばかりだし……。

というわけで、マガジンのテイストに合わせるのは即時に諦め、この連載ではおすすめのBL小説を紹介していくことにしました。直前まで「少女漫画にしょうかな」「飲み屋紹介にしようかな」といろいろ別候補も考えていたんですが、そんなしゃらくさいことはせず、もうBLで突き進みます。

BL−−すなわちボーイズラブは、その名の通り男同士の関係性、とくに恋愛関係にフォーカスした物語を描くジャンルです。その愛好家たちの通称である「腐女子」という言葉は、2018年だいぶ人口に膾炙しているのではないかと思いますが、私ももちろんその一人。

もっとも、腐女子の大半が読んでいるのは、実は「BL二次創作」ーーBLではない少年マンガ作品やアニメ作品などの行間を自分たちで妄想したもの。そのため、そうした二次創作作品の「同人誌」を購入していても、最初からBLとして描かれた「商業本」を購入している人は、思ったより少ないのです。中には100万部売れて映画化するような作品(『純情ロマンチカ』とか『世界一初恋』とか聞いたことありませんか?)もあるにはあるけれど、ごくごく一部。

そのうえ、さらにつけたすと、腐女子の大半が読んでいるのは、「マンガ」作品。これはBL以外のあらゆるコンテンツに言えることでしょうが、自分のまわりを見ていても、BLマンガを読んでいる人口と、BL小説を読んでいる人口では、体感比率で10:1くらいの差があるのです。

しかし! それはBLマンガや他のコンテンツに比べて、BL小説がおもしろくないということを意味しません。世に知られず絶版になってしまう速度も早いし、ファンにだけ知られていてそれ以上は広がらなかったりもするけれど、「男同士の関係」を丁寧に描く筆力のある作家さんの小説のなかには、ストーリーもおもしろいしエンタメとしても優れているし文体も味わいがいのあるものが、少なくないんです。ってかいっぱいあるのよ!!!

もっとBL小説好きが増えて、BL小説の話をしたいよ〜〜〜!と思っているので、まずは西原さんの「どんなテーマでもOK!」を利用して、私が愛するBL小説たちについて、つらつら紹介していく次第です。オール独断と偏見だよ!

とはいえ最近読書全般をサボっていたところもあるので、ちょっと古い作品も取り上げて行くことは許してください。でもオールタイムベストだから!

さて今回おすすめする作品は、『ふったらどしゃぶり When it rains, it pours』(KADOKAWA メディアファクトリー、2013年)。BL小説界のトップランナーの一人と言っても過言ではない作家・一穂ミチの作品です。

なぜ今回『ふったらどしゃぶり』を取り上げるか? それは同作がBLでありながら「男女のセックスレス」をメインテーマにしているから。
主人公のひとり・一顕は、長く付き合っている彼女と同棲中の社会人。
仕事も順調にこなし、美人でネイリストの彼女との仲も悪くはない……はず。ただ一つ気がかりなのは、彼女とのセックスレス状態がしばらく続いていること。何気なく誘ってみても断られつづけ、二人のベッドの間の距離もいつの間にか広がっている。

一人でモヤモヤと悩んでいた一顕だが、ある間違いメールをきっかけに、悩みを打ち明けられる相手と知り合う。彼−−実は同僚である半井整は、同居している同性の幼馴染に片思いしながらも、決して気持ちを伝えられないことに悩んでいた……。

「BLって、男同士がイチャイチャするだけで、ヤマもオチもイミもないんでしょ?」という考えを持っている人は昨今だいぶ少なくなったと思います。それでも「とはいえ、自分は別に男同士の関係に興味ないから……」と敬遠している人は少なくないでしょう。

しかし、一穂ミチはそこを軽々と飛び越えます。男も女も老いも若きもいる世界のなかで、きわめて「普通」にーーそれこそ読んでいる私たちと同じくらい普通に、暮らしている男たちが恋に落ちて、恋に落ちるなかで、自分のいびつさや世界のいびつさと向き合って行く姿を描きます。

「男同士のことはわからないし興味ない」と思っている人にこそ、新しい発見があるのではないかと、私は思います。

『ふったらどしゃぶり』において、「こいつとは気が合わねえな」と考え合っていた二人の人生が偶然交錯し、どんどん絡み合っていったように、「BLって自分とは違う世界の話だな」と思っている人ほど、どんどん搦めとられていく作品なのです。